1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
バルーンアート
夏休みに入り、実入りのいいバイトを探していたら、夏季イベントの設営スタッフ募集の日給がとんでもなくよくて、すぐさまこれに食いついた。
仕事内容はイベント会場の飾りつけ。具体的には、山程持ち込まれたバルーンアートを指定の場所に設置していくというものだ。
扱うのが、風船という割れやすい物だから、どうしても設置には慎重さを強いられる。だからバイトの日給がいいのだろう。
壊したら給料からその分を天引き。最初にその条件は提示されているので、絶対に風船を割らないという気持ちがバイト仲間の間に漲っている。
それでも時にはちょっとした手違いで風船を割ってしまう奴がいるのだが、直後に現場責任者に呼ばれ、それきり戻ってこなくなる。
多分、一度も風船を割った人間にはもう任せておけないと、その場で帰らされるのだろう。
予想以上に厳しい現場だ。絶対失敗しないようにしないと。
精神をとことんまで集中し、くたくたになりながら午前の作業を終える。これがまだ後半日あるのか。
支給の弁当もあまり喉を通らず、気晴らしに散歩でもしようと外に出たが、熱中症まっしぐらの暑さにすぐさま屋内へ退散した。
おとなしく休憩室でスマホでもいじっていよう。そう思い休憩室へ向かったが、道を間違えて会場内をうろつく羽目となった。
どうせ散歩をするつもりだったのだ。涼しい会場内を歩いても結果は一緒だ。
一応休憩室を探しながら場内をうろつく。と、扉を開けたままの部屋の中に大量のバルーンアートが置かれているのが見えた。
まだまだこんなにあるのか。これは午後からの作業も大変だ。でもバイト代のために頑張るぞ。
自分で自分を鼓舞し、部屋の前を通過しようとした時、一番手前にあるバルーンアート風船が一つ、かなり萎んでいるのに気づいた。
小さな風船だけどこのままじゃ見場が悪い。責任者の人に言っておいた方がいいのだろうか。
考えながらその風船を見ていたら、何やら話し声と共に人の気配が近づいてきて、俺は咄嗟に隣の部屋に飛び込んだ。
何も悪いことをしてないのに、どうして隠れてしまったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!