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大きくて古いだけの、普通の家だな。
胡散臭ささが微塵も感じられない玄関先で、千早は六泊七日の相方に迎えられた。
豊崎寧子、二十八歳。
つけまつげが重たそうな若い女性だ。
現在就職活動中で時間的ゆとりがある。ゆえに千早の先達として選ばれたと話す。
先達という呼称は四国巡礼の旅でよく使われる。巡礼道に慣れた者が、慣れない者を導く役目をする。それになぞらえて、何も知らない人への指導役を先達と呼んでいる。
寧子が得意そうに教えた。
母屋は芙侑と志真が住んでいる。
相方が同性の場合は、二人とも離れで寝起きする。片方が異性であれば、男性は離れで、女性は母屋で寝泊まりする。
「そんなことを心配するような男性は、滅多に来ないけどね」
女性は若い者が多いが、男は年寄りばかり。離れに向かいながら、寧子が苦笑した。
「でも。知らない家に連泊なんて、よくする気になったね」
「母がここの評判を聞きつけて。詳しく知っている人に教えてもらったんです」
宿泊申し込みの電話をかけたとき、志真にもそのように説明した。理由を切々と訴えた。
三十路を越えたのに良縁に恵まれない。それ以前の問題として、お付き合いしたことすらない。男性を見ると身構えてしまう。
どこをどう努力すれば頑なな性格を直せるのかわからない。結婚したいのだが、このままでは男性と話すことも難しい。だったらいっそのこと生涯独身でいいかとも思う。
ふらつく自分を見つめ直したくて、一時的に社会から離脱したくなった。規律が厳しすぎない一週間の修行先を見つけられて、救われる思いで申し込んだ。
千早の本音が少しだけ混じっている、一石二鳥の潜入用理由だ。
「友だちがばたばたと結婚して、わたし一人取り残された気分で。でも簡単にお付き合いしたくないし。うだうだ悩んでいるのを母が気にしていたらしいんです。一人で考えていると、頭の中がごちゃごちゃになるよって」
「あ、それ、わかる。わたしもそうだった。フウ先生は人生だけでなく、恋愛相談も聞いてくれるんだよ。マジ人生の先達なんだ。先生と話したこと、ある?」
「いえ、遠くから拝見しただけで」
任意同行で警察署に来たときに、遠くから垣間見ていた。とは言えない。
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