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「抵抗した人たちはその後、どうしたんでしょうね。ここで立ち直れたのでしょうか」
「さあ? 他の人のことはあんまし興味なかったんで、それからどうしたのかなんて、聞いてないな」
そこはやはり他人事。
自分に関係のない人のことでも結果とその後を知りたい。……寧子はそのような性格ではないようだ。知りたがるのは警察の捜査官だけか。
キッチン兼洗面所のガス湯沸かし器の使い方を教えながら、風呂を指差す。
「湯船に浸かりたいなら、何分間でお湯が溜まるか、教えるけど?」
「シャワーはありますか?」
「田舎の古い家だけど、そこら辺は大丈夫。冬は便座も暖かい」
「温水洗浄ですか」
「ビデも付いている」
「お年寄りの家とは思えないくらいの設備ですね」
「若い志真さんが居るからね」
「フウ先生のお世話をしている、一番弟子さんですね」
「あの人が居るから、ここがにぎわっている。そう言っても過言ではないね」
「志真さんが。どういうことですか」
「フウ先生は九十歳くらいだし。もし今すぐフウ先生が亡くなったとしても、四十代の志真さんが仏像のお守りをしてくれる。そうするとここは、あと五十年は安泰だと思えるじゃない。ご利益がある仏像にいつでも会いに来られるってね」
「ご利益、ですか」
「深刻な悩みがなければ、家庭円満、開運招福。お宝ザクザクやって来い。……ちょっとしたアクシデントはあったけどね。覚えているでしょ? 骨が見つかったこと」
「ええ、知っています」
「大変だったんだよ。ちょうどわたし、二回目のお泊まりしててね。ここは盛り土した土地に建ってるんで、床下浸水被害で済んだけど。辺り一面、水没してさ。おまけにパトカーは来るわ。草むしりするつもりでいた畑が黄色いテープで囲われて、行けなくなるわで大騒ぎ」
「そうだったんですね」
黄色いテープで畑を囲った者たちの仲間である千早は、神妙な面持ちで首肯する。だが内心、ビンゴ、とほくそ笑んでいた。
白骨死体が見つかったあの日。
ここに泊まっていた当事者とよもやの邂逅で。千早は早く話を聞きたい。深く知りたいと勇みかける。
慌てて臓腑をきゅっと引き締める。
平静さを失わないように野次馬を装う。深く息を吸い、へらっと笑う。
「それで、畑に行かれたことはあるのですね」
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