潜入

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「雨が降り続いていたから、今回は畑仕事はできないなって思ってたわ」 「二回目はまったく畑仕事ができなかった」 「梅雨だったし」 「一回目はどうでした? 畑に変な盛り上がりがあったとか、ここは耕してはダメだと言われれていたとか」 「それ、警察の人にも訊かれたわ」 「警察に」  面倒臭そうにしゃべる寧子に、虚を突かれる。声が裏返りかけた。  鳴也から渡されたコピーには、寧子の情報が欠落していた。それとも、寧子よりももっと詳しい関係者があり過ぎて、省略されていたか。  だから内偵捜査は欠かせない。 「千早さん、週刊誌ネタを読んだ? それ信じていないよね」 「すみません。ちょっとだけ読んでますが」 「だよね。で、その後の結果は知ってる?」 「フウ先生の犯罪説。いずれもフウ先生とDNAが一致しなかったので、立ち消えたと」 「あなたはフウ先生の仕業だと、少しは思った?」 「不確かな噂を信じていたら、ここへは来ません。舅が弟を殺したのかな。とは思いました」 「正直だね。フウ先生を知っている人はみんな、安在家は関係ないと信じてる。フウ先生の弟の骨ではないと証明されて、マジ良かったわ」 「でも。フウ先生と弟さんは、実の姉弟だったんでしょうか」  不意に、思いがけない疑問が口を突いて出た。 「母屋にフウ先生兄弟の写真があるの。ひと目でわかるよ」  千早の推理が浅いというように、寧子がさっくりと笑った。だから千早は、寧子に恐縮している姿を返す。血の繋がりのない実弟説は消えた。  では誰が埋まっていたか。  この家を深く探れば見えてくるのか。  庭には高木低木が数え切れないほど植えられている。千早がわかるのは松に梅。サツキにドウダンツツジ。柘植にモミジ、南天。それぞれの木々が枝を張り、葉を繁らせている。  であるにも関わらず。  陰気な感じがしていない。  千早の潜入が見当違いなら、それに越したことはない。 「志真さんからメールが来た。相談客が帰ったって。お待たせ。フウ先生に会えるよ」
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