潜入

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 行くよ。  千早の荷物を入れた個室の鍵をかける。  日にち指定の開放日や毎日曜日には、芙侑の信奉者ばかりが訪れてくるわけではない。身元の知れぬ有象無象がやってくる。鍵は必要だ。  そういうところは修行道場らしくない。一般家庭の感覚だ。若い世代でも気負うことなく、二度三度と泊まる気になれそうだ。  芙侑は事件発覚後も普段通りに、来る者拒まずで受け入れていた。古参の者たちはメディアに騒がれないように、安在家をそっと見守っていた。  その隙を狙うように、初めての相談者が来始めた。メディアが喧伝したご利益を仏像ではなく、芙侑に求めてきた。  霊能者のように芙侑を扱う者たちに辟易としながらも、芙侑は誰一人拒まずに、笑顔で相談者を迎えた。  物腰の柔らかいフウ先生に面会した者たちは、皆一様に好印象を持った。また会いたいと願った。  千早が読んだ週刊誌の切り抜きに、そんな記事があった。  これから母屋に行く。  会えばわかることは多い。
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