ひとひらの想い

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 なんと莉緖は去年、医学部に合格して、入学手続きを済ませていた。一ヶ月ほど通学していた。  それは旅立つ前の晶から、アドバイスを受けていたからだ。  私立中学や難関私立高校への進学が叶わず、忸怩たる思いを味わった莉緖の話を聞いた晶が、だったら日本最高峰大学の学部に合格して入れと勧めた。  大学を卒業する必要はない。  合格と入学した証があればいいのだと、裏技を伝授した。てっぺんの大学と学部を馬鹿にできるのは、その大学と学部を制した、入学できた者だけだと豪語した。  莉緖の臓腑に。  解決策がストンと落ちてきた。  晶と出会う前の夏休み。ガールキャバクラへバイトに行こうとしていた莉緖は、かつて勉強を教えた小学六年生の同級生で、私立中学に進学した女子と再会した。  塾の夏季特別講習会に来ているのだと、女子は誇らしげに話した。難関大学を目指した学習を始めていると胸を張った。  女子は莉緖が高校受験に失敗したことを知っていた。「わたし、勉強が大変でね。莉緖ちゃんは暇そうでいいね」と、鼻で嗤った。  気の善い友だちが多く、裕吾も通った通信制高校を貶んだ。見返してやりたい、という義憤が湧いた。  だが今さら大学か?  そんな気持ちが少なからずあった。  小学一年生のときに出会った大学関係者たちに、知らず、アレルギーを発症していたらしい。  晶に会うまで、莉緖は悶々とした澱みを抱え、蓄積させていた。  晶は莉緖の先達役を見事に果たした。莉緖は裕吾に勧められたように進学した通信制高校初めての、最高峰大学医学部合格者となった。  莉緖は補導騒ぎのあとで親身になって心配してくれた母校に恩を報い、高校の存在を教えてくれた裕吾に感謝した。
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