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ミヨリの首を絞める。
より強く。指先に力を込めていく。
左親指の位置をずらした瞬間
「くうっ」
ミヨリが最期の息を吐く。
体が弛緩する。
このミヨリ。
息を吸うことはもう二度とない。
雨で湿る畑の、川縁に掘った穴。
ミヨリを穴の底へと落とす。
うつ伏せで穴に収まるミヨリ。
虚ろな目を見なくても済む。
ミヨリの心遣いに感謝する。
否。
もしかして。
まだ意識があるというのか。
そう思いながらもスコップを持つ。体の上に土を被せていく。もしまだ生きていたとしても、予定通り埋めてしまう。
死にたい。
涙をこぼして懇願していたミヨリ。土の中で心変わりをして、やはり生きたいと願ったら。息を吹き返せ。
足掻いて土の中から這い出てこい。
手を伸ばして、地上へと芽吹け。
死にたい心が未だ勝っていたのなら。
土の中で。
そっとおやすみ。
そうすれば窒息できる。
けれど生きていたら。
どこかでばったりと出会う。
そのときはお互い、知らん顔してすれ違う。
三年会わなければ空へと手を合わす。
そう決めておこう。
だから今は。
土を戻し、作業を終える。
ミヨリが埋まっている上を踏み固める。
固めた上に、枯れ枝を載せておく。
夜が明けてきた。
闇に白色が混じってくる。
急ごう。
紫陽花を掻き分け、用水路のような小川に架けてある、コンクリート製の柱のような細い橋を渡る。
なにげなく、手を見遣る。
薄手のゴム手袋をはめたままだった。
ミヨリの首を絞め、土を被せたゴム手袋をビニール袋に仕舞う。リュックに入れる。
バイバイ、ミヨリ。
鈍色に染まる農道を。
足早に去っていく。
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