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「安在家は新宗教と思われて、非合法なことをしていないか。公安の内偵が一度、入ってんすよね」
湯山千早の相方、伏塚鳴也が資料をめくりながら話しかけてきた。警察独自に収集したものと一緒に、新聞や週刊誌の関連記事コピーも綴ってある。ガセネタもありそうだ。
「へえ、そうなんだ。それで、少しでも危険性アリとなったとか?」
「ないっすね。どこにでも居る町の拝み屋。占い師扱いになっています。内偵時はまだ志真さんと呼ばれている人は居なくて。二人が同居を始めたのは、数年前らしいっすよ」
「ねえ、この間も言ったけど。っすねと言う話し方、耳障りなんだけど。わたし、聴き取りに回るとき、一緒に居ると恥ずかしいって、やめて欲しいと言ったよね? 特に年配者には禁句だよ。話を聞くとき、軽く扱われて損だし」
「んじゃ、千早先輩の、だし、もナシでいかが、でしょうか」
大きななりをして何、揚げ足取ってごねているんだ。千早は五つ年下の後輩を見上げる。
見下ろしたかったが、相手は百九十センチ超えの長身。脚立にでも登らないと、見下ろせない。
「マジで単独行動する気、ですか」
「君がそんなにでかくなければ連れて行くんだけど。目立つじゃない」
「まあそうなん、ですけどね」
「パソコン内のデータだけじゃなくて、その資料も読んでおいたほうが良さそうだな」
「そうしてください。俺が傍に居られるんなら、問題が起きても素早く対処できますが」
「問題がないことを祈りたいね」
祈りたいが、安在家の二人は濃いグレー扱いとなっている。どこから探り始めていけば彼女たちの疑いが晴れるのか。ボロを出して犯人逮捕に繋がるか。
そもそも連続殺人事件か。別々の事件はたまた、殺人事件のような事故か。
夏を過ぎて秋真っ盛りとなっても、一体分の身元すら判明できていなかった。そこで再び、安在家に内偵が入ることになった。
そこら中で見かけるショートヘアで中肉中背。小顔でもなくデカいツラでもなく、見過ごしてしまいそうな平凡な顔立ちの千早に、白羽の矢が立った。
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