発端

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     ※  ※  ※ 「安在家は新宗教と思われて、非合法なことをしていないか。公安の内偵が一度、入ってんすよね」  湯山千早(ちはや)の相方、伏塚鳴也(なるや)が資料をめくりながら話しかけてきた。警察独自に収集したものと一緒に、新聞や週刊誌の関連記事コピーも綴ってある。ガセネタもありそうだ。 「へえ、そうなんだ。それで、少しでも危険性アリとなったとか?」 「ないっすね。どこにでも居る町の拝み屋。占い師扱いになっています。内偵時はまだ志真さんと呼ばれている人は居なくて。二人が同居を始めたのは、数年前らしいっすよ」 「ねえ、この間も言ったけど。っすねと言う話し方、耳障りなんだけど。わたし、聴き取りに回るとき、一緒に居ると恥ずかしいって、やめて欲しいと言ったよね? 特に年配者には禁句だよ。話を聞くとき、軽く扱われて損だし」 「んじゃ、千早先輩の、だし、もナシでいかが、でしょうか」  大きななりをして何、揚げ足取ってごねているんだ。千早は五つ年下の後輩を見上げる。  見下ろしたかったが、相手は百九十センチ超えの長身。脚立にでも登らないと、見下ろせない。 「マジで単独行動する気、ですか」 「君がそんなにでかくなければ連れて行くんだけど。目立つじゃない」 「まあそうなん、ですけどね」 「パソコン内のデータだけじゃなくて、その資料も読んでおいたほうが良さそうだな」 「そうしてください。俺が傍に居られるんなら、問題が起きても素早く対処できますが」 「問題がないことを祈りたいね」  祈りたいが、安在家の二人は濃いグレー扱いとなっている。どこから探り始めていけば彼女たちの疑いが晴れるのか。ボロを出して犯人逮捕に繋がるか。  そもそも連続殺人事件か。別々の事件はたまた、殺人事件のような事故か。  夏を過ぎて秋真っ盛りとなっても、一体分の身元すら判明できていなかった。そこで再び、安在家に内偵が入ることになった。  そこら中で見かけるショートヘアで中肉中背。小顔でもなくデカいツラでもなく、見過ごしてしまいそうな平凡な顔立ちの千早に、白羽の矢が立った。
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