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:響平:
「まあ…お近づきのしるしに」
健吾の胸ポケットから名刺が渡される。
そこには、片桐健吾の名前と…違う会社の名前。
「あれっ、会社名…」
伊織を見れば。
「ああ。それな。ウチみたいな弱小の出版社は、営業とか委託してんだ。本社…というか。まあ、大手だな」
って、苦笑いしながら言われる。
……知らなかった。
やっぱり都会だと、いろいろと大変なんだなあって思ってたとき。
ふと、健吾から差し出される右手。
握手?さっきもしたのに?
真澄も右手を差し出せば、するりと、その右手がすれ違う。
すぐ近くに、健吾の顔。
――――ふわり香る香水。
その大人な都会の空気にクラリときたとき。
「……なにやってんだ。おまえ」
昂の声。
振り向けば、さっきの部署の面子が勢揃いしてた。
「…アンタ達こそ、勢揃いでなにやってんですか」
健吾が問い返す。
「俺らは…伊織達が遅いからって、社長に追い出されたトコ。で、おまえはウチの新入りに何やってんだよ」
何かを察する昂に、平然とした顔で健吾は答える。
「ん?ああ。ほら」
健吾が、真澄のスーツのポケットから何かを取り出した。
…ボタン?
見れば、健吾のスーツの袖のものと同じやつだった。
「おまえ、朝、電車の中で俺のボタン引きちぎってっただろ」
健吾に言われ、思い出す。
今日の朝っ…満員電車の中で思わず袖つかんだ人!!
無意識にボタンを引きちぎって、ポケットに入れてたらしい。
「す、すみませんでした!」
「――――追いかけたけど、財布と追いかけっこしてたしな。おまえらのトコのビル入ったってとこまでは見届けてた。どっかで、見たことある顔だと思ったんだよ。だけど……」
変わらぬ笑顔のまま、目だけが変わる。
まるで、品定めするかのような、その目。
ゾクリと背筋が氷る。
「顔は…マリサ《社長》が選んだだけあっていいけど。そのスーツな。もうちょっといいの、ねえの?」
「このスーツはっ……!」
言いかけてやめる。
目の前で話しているのは、まるで雑誌からそのまま出てきたようなルックス。
見れば、他の人達だって…。
真澄は思わず、胸の辺りを握り締めていた。
ふと、暗くなる。
誰かが、真澄の前に立った。
見上げれば……。
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