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:yunomu:
「編集長とか他のひとが、最初の頃はついててくれてたからいいんですけど」
合間にまた、こくりと梅酒を一口飲んで、祐樹はこれまでの受難を小声で並べる。
「ある漫画家さんは…参考資料にするからって、変なポーズとらせようとしたり。他には…小説家さんなんですけど、書きかけの原稿の…濡れ場ばかり音読させようとしたり」
困った顔で、はし袋を折ったり伸ばしたりする手つきが、小動物みたいだな、と思いながら聞いていた真澄であるが、祐樹の愚痴というよりは切実な訴えに、
「…それ、セクハラじゃないですか!」
思わずそう口を開いていた。
そんなことがまかり通ってなるものかと、憤る。
「まー、それはそうなんだけどな」
これに伊織は、メニューの冊子をパタンと閉じて嘆息した。
「相手はこっちが、頼み込んで弱小雑誌に書いてもらってる大センセだったりするわけよ」
弁解するみたいなその声は穏やかだけど、目には怒りがこもっていた。
「で、限界まで我慢してたのに。とうとうベッドに誘われて、逃げ帰って来たんだっけかな、伊織の場合」
あの企画は、デカかったから、ポシャったときは痛かった。
昂はそう言って、火のついた煙草を揉み消しながら唇を皮肉げに歪めた。
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