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:yunomu:
部屋で身だしなみを整えたら、また出勤だ。
真澄は、二日酔いを抱えて再び満員電車に挑むことにげっそりした。
これが毎朝なんて、と、電車を待つ列に並びながら思う。
人の流れに半ば強引に流し込まれて、車両のなかほどまで到達したら、
「よぉ」
少し離れたところから声をかけられて、引っ張りこまれた。
ほぼゼロ距離で見上げたその人は、
「片桐さん」
「…健吾でいい」
昨日もこの電車で会って、仕事終わりにひと悶着した、片桐健吾その人だった。
今日はネイビーのスーツにトリコロールのラインの入ったネクタイをしめていて、どちらもすごく似合ってる。
「二日酔い?」
スーツのことで言い合ったときには見えなかった健吾の優しげな顔に、ドキリとする。
「え…?」
「スーツ昨日と同じ。…誰かにお持ち帰りされちゃった?」
ニヤニヤしながらささやく内容に、真澄はビクリと肩を揺らす。
「いやっ…そんなことは!」
真澄は、昨日、健吾に注意されたスーツをまた着てしまったことを指摘されて、あたふたするけれど、健吾の興味は別のところにあるらしい。
「マジ?冗談のつもりだったけど。…凌輔とか?まさか、昂じゃないよな?」
あいつら一緒のマンションだから。
そう言いながら、何故かすごく不安そうなのが気にかかった。
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