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:凪瀬夜霧:  そこまで言った途端に、視線を外された。  資料室に他の人はいない。ここで聞かずにどこで聞く! 「あの、昨日あの後大丈夫だった?」 「え! あっ、うん。大丈夫だった、よ?」  とてもそんな風には、見えないんだけれど。  祐樹の顔は見る間に赤くなった。耳まで真っ赤だ。 「――――何かあった?」 「な、なんで!」 「いや、スーツそのままだし。分かりやすいというか」  ここまで聞いて、中途半端は余計にダメだろ。  真澄はグッと自分に言い聞かせて、そう突っ込んでみた。  祐樹はアワアワして、次にギュッとスーツの裾を握って呟いた。 「伊織さんは何も悪くないんだ。オレが飲み過ぎて、オレの心配をしてくれただけなんだよ」 「分かってるよ。それで?」 「オレ、居酒屋で目が覚めて、まだ終電もあるし帰ろうとしたんだけど、ふらふらで。そこに伊織さんが来てくれたんだ。居酒屋に迷惑かけっぱなしも悪いから、引き取るって」  なるほど、確かに面倒見がいい。  絡み酒で、あの人自身も大丈夫かと思っていたけれど。 「でも、途中で気持ち悪くなっちゃって、その、ホテルに……」 「え?」 「オレを休ませようとしてくれたんであって、他意は無かったんだ! でも、その……歓楽街のホテルだから」  消え入りそうな声で「ラブホ」と、呟く。  それだけで、真澄の思考は停止寸前になった。 「あの、何もなかったか?」 「…………」 「何があったんだよ!」 「酔ってたの! 介抱されているうちに、オレ……甘えちゃったんだと思うんだ。気を付けてたはずなのに。それで、その……」  カァァ、と首元まで赤くなった祐樹はしゃがみ込んで、顔を隠して、今にも叫び出しそうになっている。  何かはあった。  浅はかな知識だと、キスだけなら、まぁ……うん。触りあいもまだギリギリ。  けれど、後ろまでとなったら。  まさか職場でこの展開!   しかも疑わしいのは祐樹だけじゃなく、昴もだ。 「まさか、後ろ――」 「そこは流石に処女だよ!」  そうか、あっちも処女って使うんだ。初めて知った。 「……でも優しいんだなって。オレ、創作物かそういう性癖の世界なんだって思ってたんだ。でも、酔ってたけど――――嫌じゃなかったって戸惑ってる」
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