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:亜衣藍:
『冗談じゃない、勘弁してくれ!』
真澄はそう焦って言い、財布を奪い取るように取り返すと、逃げるようにその場を去った。
初出勤で、いきなり遅刻はマズ過ぎる!
真澄はダッシュして、ギリギリで新たな職場へと到着した。
(しかし、この時はまだ、直ぐに同じ人物に出会うことになろうとは夢にも思わなかったのだった)
◇
「おはようございます! 本日からお世話になります、佐野真澄です! 」
新人は、とにかく元気に大きな声で!
姉から聞いていた『社会人の常識』を発揮して、真澄は元気にそう挨拶をした。
しかし、
「――お前、うるさい! 」
そう、如何にも迷惑そうに言い返され、真澄は狼狽える。
考えてみれば、姉の言う『社会人の常識』は、それまで暮らしていた田舎での常識だ。
東京では違うのかもしれない。
「す、すみませんでした! 」
真澄は慌てて、頭を下げた。
委縮する真澄に向かい、相手は不機嫌そうな視線を向けると、少し口調を柔らかくして名乗って来た。
「――オレは、山吹昂。小さいが、ここの出版社で編集を担当している。今度、新しい部署を立ち上げたんで、君はそこに入る事になる……おーい、伊織! 」
その呼び声に、デスクで突っ伏して仮眠を取っていたらしい一人が顔を上げた。
「……なんですか、編集長? 」
「こいつは、新人の佐野真澄。お前に任せるから、午後からの華道家の取材、一緒に連れて行ってやれ」
その指示に、伊織と名指しされた青年は鬱蒼と立ちあがった。
「――ああ、やっと助手が来たか。オレは芳野伊織。今度、ここの出版社で新しく雑誌を刊行する事になってね、人が足りないもんだから大変だったんだよ」
伊織と名乗ったこの人は、真澄とそんなに歳は違くないようだ。
何となく気安くなって、真澄は問い掛けてみた。
「ああ、面接の時に聞きました。新しい雑誌って、何ですか?ファッションですか? ゴシップですか? オレ、頑張ります! 」
「――――BLだよ」
「え? 」
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