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:yunomu: 「ぶえっくし」  噂の的となっている二人は、取材相手の邸宅(家、と呼ぶには重厚な造りの建物だ)の応接間に通されていた。  お手伝いさんの「少々お待ち下さい」という声から、かなりたつ。  ふかふかの座り心地のいいソファに座って、盛大なくしゃみをして、おっさんくさく 「あー」とか言ってる伊織を見上げて、真澄は一抹の不安を感じていた。 「花粉飛んできてんのかな」  伊織はそんな新人の不安なんて毛ほども感じないらしい。  ムズムズする鼻をこすりながら、のんきな声をあげた。  そのとき、 「お待たせいたしました」  年配の女性の声がして、す、とドアが開いた。  その隙間を縫うように、音もたてずに応接間へと和装の麗人が入ってくる。 「遅くなりました」  一応、謝罪の意をこめて目を伏せる姿はその所作の一つひとつが優美だ。 「いえ、どうも本日は…」  挨拶をする伊織の隣に、はじかれたように立ち上がった真澄は、目の前に現れたその人を見上げて 「あ」 思わず驚きの声を漏らしていた。
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