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「何か面白いもの見えるんすか」
不意に背中からかけられた声に、自分の肩が僅かに揺れるのを感じた。公園でサボっているところを見つかってしまったからか、それとも声の主のせいか。
振り返れば、一年後輩の男。このそつがない後輩に既に営業成績を抜かされつつある僕は、あまりこの男が得意ではない。
まあこうして営業中にサボっている時点で追い抜かされても当然であるわけなのだが。
「いや、何も。何だよ、お前もサボりか?」
見れば、手にスターバックスのマグを持っている。自分の手元にあるマクドナルドの紙カップに目を落として、こんなところですら差が出てしまうんだなとまた笑いがこみ上げそうになった。
「人聞きが悪いこと言わないでください、休憩ですよ。先輩もそうでしょ?」
ほら、こうやってさり気なく人のフォローまでするような奴なのだ。好きになれない。
彼は、そのまま近付いてくると僕が座っているベンチのすぐ隣のベンチに腰掛けた。
「せっかくいい季節になったと思ったのに、今度はもう冬ですよ、秋短すぎますよね」
「営業の運命だよ、これで文句言ってるとあっという間に夏が来るんだ」
「恐ろしいこと言わないでください、去年の夏の暑さはちょっとキツ過ぎました」
「でもお前成績良かったじゃん」
「たまたまですよ」
課長に表彰された売上成績をたまたまだとさらっと流して、彼はさっきまでの僕のように空を見上げた。
「女の子でも落ちてこないですかね」
エスパーか。
いや、誰もが思うようなよくある思考なのだろう。僕と同じことを考えたらしい男は、自分の発言が恥ずかしくなったのか誤魔化すように小さく笑った。
「落ちてきたらお前全速力で走れよ、俺絶対間に合わないから」
「ゆっくり落ちてくるから大丈夫じゃないすか?」
「間に合っても支えられる腕力もない」
「あ、それちょっと自信あります。オレ大学のときラグビーやってたんで。補欠ですけどね」
どうでもいい呟きが笑い飛ばされなかったのが嬉しかったのか、彼はいい笑顔で力こぶを作ってみせた。
ああ、言われてみれば如何にもそういうスポーツマンタイプだ。どこまで行っても人生の日向を歩き続けるタイプだ。
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