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「俺の大学も、ラグビー有名だったな。全然交流はなかったけど」 「……先輩、オレの大学知ってます?」 「知らないけど」 「オレ、先輩の後輩ですよ。あ、今もですけど大学も」 「あ、……そうなんだ」 じゃあ、さっきのは完全に謙遜じゃないか。僕の通っていた大学はラグビーの名門で、そこで活動していたのなら補欠だとしても相当な実力のはずだ。 本当に嫌味なほどにそつがない奴だな。そんなことを思って、だからそのあとに彼が言い出した話がすぐには頭に入ってこなかった。 「先輩、ミス研でしたよね。会報、オレ毎号買ってたんですよ」 「……ん?」 「会報、一回人に借りて読んだら連載が気になっちゃって。だから買ってました」 「…………ん?」 確かに僕はミス研、ミステリー研究会に所属していた。会報も出していたし、活動費のためにそれを外部に販売もしていた。 それを、買っていた? この日向一直線の男が?日陰まっしぐらの出す会報を? しかも今連載と言わなかったか。当時、と言うよりもそこそこ長い会報の歴史の中で、連載という形を取ったのは後にも先にも一人だけだ。先輩たちに前例がないと怒られながら(物語を完結させるというトレーニングも兼ねていたからだ)それでも僕は、何とか連載をさせてもらっていた。そう、僕だ。 「先輩の、面白かったっす」 屈託のない笑顔とともに落とされた爆弾に、どんな返事を返せばいいのかさっぱり判らなくて、僕はもう一度空を見上げた。 「だから、書き続けてくださいね」 こいつ、どこまで知っているのだろう。 この感じだと、僕が生意気にも休筆宣言(それでも断筆と言えないところが思い切りの悪いところだ)をした研究会OB主催のホームページも見ているに違いない。 プロになることも出来ず、他に何の目的も見出すことも出来ず、こうやって燻っているしかない僕をすぐ近くで見ていたくせに。 空にはいくつかの雲と、目に痛いほどの青と、そしてはるか上空を飛ぶ飛行機があるだけだ。 他に何があるわけでもない。 それでも。 「……休筆だからな、ネタが溜まったらまた考える」 「楽しみにしてます、堂入さん」 「ペンネームで呼ぶのやめろ!」 もう暇ではない。 目まぐるしく動き出す次のトリック。そのキャンバスに、何もない空はちょうどよかった。
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