#05 三つの夢
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#05 三つの夢

私の向かいの少年の態度とときたら、それはひどいものでした。 彼はご両親にも看護士さんにも馬罵雑言を浴びせ放題に浴びせ、そうかと思うと今度はあらゆるものに悲観して泣き続けるのです。 どう考えても彼が情緒不安定に陥り、感情のコントロールを失っているとしか思えません。 私が手術を終えこの大部屋に移ってきた時、彼はそんな有様だったのです。 それでも向かいにきたのだから挨拶くらいはしておくべきと思い、私は杖を手に彼のベッドに向かいました。 「どうも、坂本と言います」 私が先に名乗ると、意外にも彼は言葉使いも丁寧に、優しく応対してくれました。 一瞬、別人のようにも感じましたが、むしろそれが本来の彼の姿なのだろうと私には思えたのです。 少年は高橋君といいました。この病院の近くの高校に通っているそうです。 高橋君は私の事を知っていました。 何を隠そう私は以前、地元のK球団に所属していたプロ野球選手なのです。 三番でショート、攻守の要で長年チームを支え続けてきました。 優勝経験こそ無いのですが、タイトルを手にしたのは一度や二度ではありません。 とはいえそれも、今は昔の話。     
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