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6月――。
P大学の大講義室。
大学一年の大地源が一番後ろの席に座って、『論理学Ⅰ』の講義を聞いている。
「“君は君であり、私は私である”。“平和な世界とは戦争のない世界” であり、“戦争のない世界とは平和な世界” である。このような言葉の繰り返しのことを論理学では、『同語反復』 “トートロジー” と呼び、特別な意味が付加されるものではない……」
壇上で講師がそんな話をしている。
そんな当たり前なことを仰々しく専門用語で説明されると、それは間違いなくテストに出るのだろう。大地は、選択科目にこれを選んで正解だったなと思った。
壁の時計を見る。
午前11時55分。
大地はバッグを持って、そーっと講義室のうしろから出ていく。
向かった先は男子トイレ。
中に入り、誰かいないか確認する。
大地は誰もいないとわかると、サッと個室に入り、「ふう」と溜息をつく。
腕時計は、午後12時を示す。
チャイムが鳴る。
その瞬間から大地は動きを止め、その場の空気と一体化する。
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