第1章 桃ちゃんはお魚たちのアイドル

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第1章 桃ちゃんはお魚たちのアイドル

まどろみたくなるような緩んだ空気。こぽこぽこぽ、と微かな水音が幾層も重なり合って低く響き続けていて、耳を傾けているとふうっと眠くなりかける。明かりを落とした狭いせまい店内は、常に、いつでも薄暗く、その中で水槽だけがぼうっとほの明るい。 うちで扱ってるのは概ね熱帯魚だから、水温を一定以上に保つために各水槽にそれぞれヒーターも必要だ。だからかいつも店の中の空間はそこはかとなく湿気が含まれていてしっとりと温かい。こじんまりとした小さな店舗だから尚更そう感じるのかも。冬は快適な環境、といえなくもない。尤も夏場は水温が上がり過ぎないように店内の空調にも気を配る必要がある。その辺の塩梅はなかなか神経を使う。 「なんかさぁ、辛気臭いんだよなこの空間。魚や水草のレイアウトを綺麗に見せようとしたらこういう人工的なライティングが必要なのかもしれないけどさ。何だってここまで自然光がないわけ?窓もろくにないようなこんな息苦しい店、どうして建てちゃったかなぁ…」     
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