梅の手紙

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
最早、私は誰なのか。判る者は居ない。私は、私であり、違うのだから。クロスを首に下げ、天を見上げる。あぁ、晴れ晴れとした、心地良い陽だ。  コレは……。 それは、綺麗な綺麗な緋色の手紙、鮮やかな緋色の和紙封筒に描かれた、梅花。誰宛でもない、手紙。和紙の感触が柔らかい。  今時、文通など、粋な輩もまだ居るのか。 近年、電子機器に頼って、紙とペンで綴る手紙は廃れつつあるらしい。悲しき事かな。作文用紙にペンで綴る小説家も、少ないのだろうか。私は、紙とペンで以て書く手紙の方が好きだ。便箋を選び、相手を想い書くインクの香、季節の風に乗せて届く便り……なんて、素敵ではないか。手に持っていた、緋色の手紙を近くの机に置く。ふと、封筒に描かれた梅の絵に目がいく。  然し、梅……春花か。 部屋から、一歩も出ない私に外の季節など関係なかった。この便箋選びは、彼奴を思い起こさせる。漸く、誰からの便りか、判った。  季節を合わせて、私に便りを送るなんて、御前くらいなもんさ。 クスリ微笑した。今でも、御前は私に季節を報せてくれるのだな。もう、私なんて、忘れて仕舞えば、御前も、楽だろうにな。御前からの、復讐……仕方ないか。私が、御前を傷つけたも同然。私は、御前の道化……。あの日以来、そう決めたからな。  偶には、返事の一つでも書いてやるか。 疾うの昔に死んでしまった御前に返事の便りを出した所で、御前は読まずに棄てるだろうが。私が、嫌いなら嫌いでも、いいから。もう、辞めようか。終わりにしよう。こんな遣り取り、お互いに疵を抉るだけだ。私が、御前に付けた疵は、赦されないかも知れない。 だけど、其れでも、御前は私の唯一人の…………。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!