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見上げた空で、カラスが夕日を斑点に染め上げる。
頬を、髪を撫でるそよ風が妙に心地良い。それと同時に草の匂いが鼻孔をくすぐり、耳には葉っぱ同士がぶつかる音が届く。
感傷に浸るには持って来いの環境に、胸が弾む。
悲しみに濡れた心が潤って行くのを感じる。一人は寂しいと胸に広がっていた気持ちを消し飛ばしてくれるような、そんな時間を過ごしていた。
意識すると枯れたはずの涙を流してしまいそうになる、だからいつもみたいにおちゃらけていたい。だけどそうするには、あまりにも感情が邪魔になる。
抑制出来る程大人に徹し切れず、かと言って解放出来る程子供なつもりはない。中途半端で宙ぶらりんな俺。
僅かな抵抗を試みて近所の山、そこに存在する開けた草原に身を投げ出し黄昏る。昔から困った時にここへ出向いていたように思う、その度に心を落ち着けて「無かった」ことにして来た。
恰好良く言えば気持ちの切り替え、格好悪く言えば逃げているだけだ。それも、格好つけて逃げているのだから救いようがない。
そして、これで救われる自分がいるのだから殊更救いようがない。
だけど、何億もの光の中で出会った君との時間を、もっと長く楽しく過ごしたかった。
だから、今日は君にさよならを言いに来たんだ。
他の誰かじゃない、君が照らしてくれた道で迷わないように、その未知に怯えないように。
ありがとう。
そして──さようなら。
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