3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
人の不の感情は、ある種のエネルギー体で空気中を漂うものだ。
常人には見ることができない。
ただ、特に、薄暗いビルとビルの隙間、自動販売機の裏、駅の角のスペース……人工物の忘れ去られがちなスペースに、それらはよく溜まる。
しかし、甘く見てはいけない。
微弱と言えエネルギー体、常人が見える程まで集まれば、低級な意思を持ち、実体化する。
即ち、それは悪意を持った魔が生まれると言うこと。
今宵の満月が淡く照しつけるのは都心から少し離れた住宅地、神秘的な月の光が写すものは、冷たくひえた家々の屋根だけではなかった……。
その屋根を這いずるようなひとの影、しかしその影は人ではない、人の筈がない。
大きさは3mもあり、やたらと首が長く頭がマッチ棒の様に小さい。
目の様なものは付いてはいるが何処を見ているのか……、頭をぐりぐりと回す。
そして、その影はブロック塀に囲まれた狭い路地を走る二人の男女を追いかけていた。
男は黒のジャケット、黒のズボン、全身を黒で包み、腰まで伸びた髪は、月の光を響き返す銀色の流れるような白髪。
それは一本に束ねられ、走っている今、空中を泳ぐ様になびく。
女は男と違い、黒い絹の様な髪に月光を星屑の様に纏わせる。
白いマフラーに黒いコート。
そして、光をも浸透する、白く柔らかな肌の細くすらりと伸びた美脚。
大元のミニスカートがチラチラとなびく。
男は腰に差した日本刀をいつでも抜けるように左手で鍔元を強く握る。
女は丸めな眼鏡を左の中指と薬指でクイっと上げると、右手で首から下げた一眼レフのカメラを握り締めた。
魔は不の感情の集合体、当然その中には男性の醜い性欲も含まれる。
滑らかな女の素肌に興奮するのは必然。
最初のコメントを投稿しよう!