#12 凌辱

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 はっと見上げた蘭の視線に、要の笑顔があった。とても穏やかなその笑顔は、今にも消え逝きそうな弱々しい光に見え、蘭の心を恐ろしいまでに苛んだ。 「当然だろ? 蘭は、俺の……たい、せつ、な……」  要の声が徐々に小さくなる。最後までは聞き取れなかった。  閉じられた瞳と同時に、蘭の頭から要の手が力なく落とされる。 「よう……? 要っ!」  蘭はしきりにその名を呼び、身体を強く揺らすが、要は目を開けなかった。  蘭の身体は恐怖で震えていた。  大切な者を失う恐怖が、こんなにも怖いなんて。蘭は知らなかった。 「イヤだ……無くしたくない。いやだ……嫌だ」  蘭ははじめてそう思っていた。 「俺はまだ聞いてない。なんて言いたかったんだよ、おい! ずるいぞ、要っ!」  最後の言葉を……要が何を思っていたのかを知りたい。 「要、教えてくれよ。なあ、何て言いたかったんだ……」  聞きたい!  ぐっと歯を食い縛り、蘭は覚悟を決めた。 「死なせない。絶対に!」  時間がない。今、蘭がやらなければならないことは、要を連れ帰ることだった。  蘭は渾身の力を込めて要の身体を胸元に引き寄せた。  上半身を起こすと、自らの身体を要の胸の下に潜り込ませる。 「くっ!」  自らの身体を前に倒し、ぐいっと腰を持ち上げ、てこの要領で要の身体を支える。ぐったりと血の気のない要は、まるで死人のように見えた。     
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