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海には白波が立ち、徐々にうねりを増していた。人間を嘲笑うかのようにその強い力を船へとぶつけ、波と波の狭間に飲みこもうとする。立っていられないほどの強い揺れが船を襲い、高波が甲板を浚う。そこにいる男たちは皆一様にバランスを崩され、足を取られ転がる者、体制を崩したその隙を狙って襲い掛かる者、そのまま海へと放り出される者……命を駆けて戦う男たちも船の揺れに翻弄された。
空が低く唸る。斬られた海賊たちの断末魔の叫びを強い風に乗せ、今にも大粒の雨がその涙となって降りだしそうだった。
まだ夕暮れには早い時間だというのに、周囲は不気味に暗い。雲間に稲妻が走り、周囲の温度が一気に下がった。
まるで、この戦いの終焉を暗示するかのようにも見え、蘭は空に視線を走らせ、唇を噛んだ。
――どうしてこんな事に!
蘭たち海賊マリスの船員らは、海賊ガルドが所有するガルド号の船上にいた。ガルドは海賊なら誰もが知る大海賊で、皆ガルドには一目置いていた。
それにひきかえマリスは歴史こそ古いが、ガルドとは比較にならないほど小さな集まりだった。
なぜ戦闘が始まったのか、その理由も始まりも、マリスにいる連中は誰もよく知らなかった。外が騒がしいと思い、蘭が船室から甲板に出たときには、眼前にマリスとは比べ物にならない大きな船が横付けされていた。
その船の帆のエンブレムとはためく船旗から相手がガルドだとわかった。
(なぜガルドの船がここに?)
事態はただごとではない。蘭が剣を握り、仲間たちを追って外へ飛び出していったときには、すでに戦闘は始まっていたのだった。
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