#1 嵐の船上

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 蘭は向かってくる敵を、片っ端から切り裂きながら船上を駆け抜けていた。  もう何人斬ったかなど覚えていない。  蘭のその手に握られた細身の剣は、切り結んだ海賊たちの血をたっぷりと吸って深紅に染まり、切っ先からは血が滴っていた。甲板も血に濡れ、生臭さが鼻をつく。中にはそれに足を取られてしまう者もいた。  斬らなければ殺られる――。混乱と敵意、憎悪が渦巻くこの状況において、蘭の服もところどころ千切れて血が滲み、無傷では済まなかった。  蘭の剣技が、多少他より優れていたとしても、圧倒的多数の敵に圧され、徐々に体力は落ち、判断力も鈍ってきている。  右に左に剣を振り、敵を薙ぎ倒す。背後から襲ってくれば鳩尾に肘を埋め、正面に立ちふさがる者にはその身体に剣を突き立てる。  蘭が駆け抜けたあとには、絶命した海賊たちの死体が転がっていた。 「あそこだ! 蘭だ、マリスの蘭がいたぞ!あいつの首を取れ! あいつを落とせばマリスは終わりだ!」  はっとして蘭が後ろを振り返る。その背後には、大振りの剣を構えた男たちが蘭の方を指差し、「殺せ、あいつを殺せ!」と、声を荒げながら向かってくるのが見えた。  男たちは数に物を言わせ、容赦なく蘭に襲い掛かる。 「チッ……!」  まちがいなく標的は自分だ。     
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