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蘭は一瞬だけ天を仰ぎ見た。
重苦しさを感じる空から大粒の雫が落ち、蘭の頬に当たった。それはほどなく激しい雷雨となり、容赦なく打ち付ける荒波とともに甲板を染めた数多の海賊の血を洗い流す。
「みんな! 攻撃をするな! 船長を、船を守ることに全力を注げ!」
蘭は天に向けてひときわ高く叫んだ。
戦いは劣勢、使える策などもう尽きた。仲間の疲労も、そして蘭自身も限界が近い。
この戦いで船の指揮系統などとっくに失ってしまっている。犠牲者の数を把握する術すら、今の蘭にはない。
そうなれば、取れる戦略はもう限られている。
「骸、骸はどこへ行った」
自分の眼前に立ちふさがった大男の胸元に己の体重をかけ、剣を深々と突き立てながら、蘭はこの船の操舵を行うもうひとりの名を口にした。
だが、その身体越しに見える仲間は首を激しく横に振る。
「どこにもいません!」
「いない? なぜいない!?」
「わかりません。おそらく、既に倒されたのではないかと!」
仲間は、敵と鍔迫り合いを繰り返しながらも、半ば叫んで蘭に答えた。もう彼も息が上がってしまっている。状況は確実に蘭たちにとって不利な方向へと舵を取っていた。
もう一人のマリスの副船長・骸。
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