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船長の孫である彼を副船長にすることに最後まで反対したのは、蘭だった。
常に自分たちが乗る船のことを第一に考えなければならない。それは乗組員にとって当たり前のことだが、副船長ともなると、時には船長代行として、船と仲間にとって最善の方法を執っていかなければならない。蘭は何も、世襲のような任命の仕方を嫌って反対したのではなかった。
蘭には、反対するに足る理由があったからだが、今更ながらそれを後悔した。
それに骸だって海の男だ。数多の戦いをくぐり抜けてきた。彼の手腕は、蘭が一番良く知っている。
『あいつはそんな簡単に倒されるタマではない。まさか……』
逃げたのか。
浮かんだ考えを、無理に払拭しようとすればするほど、骸への疑念は確信へと変わってしまう。
「くそっ!」
蘭は忌々しげに舌打ちすると、剣に心臓を突かれ絶命した男を足で蹴り払い、剣を振って血糊を飛ばす。ちらりと視線を落とした剣先は、すでに刃がこぼれ始めていた。
――長くはもたない……。
雨は容赦なく甲板に叩きつけ、周囲の景色すらその靄に取り込まれてしまっていた。
視界が利かないこの悪天候。味方の姿は徐々に少なくなり、その代わり、自分に向けられる剣の数が増えた。
『これまで、か……』
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