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唇をかみしめ、剣を振るう蘭の脳裏に諦めの色が浮かぶ。息が荒くなり、 心も身体も疲弊しきっていた。
不意に激しい雨の中に、長身のシルエットが見えた。敵なのか、味方なのか。この激しい雨がその姿を隠し、判別が難しい。
蘭が剣を構えるよりも早く、シルエットはまっすぐ蘭の首筋に硬く、ぎらりと光るものを突き出してきた。
ひやりとした感触が首に当たった。瞬時にそれが剣だとわかったが、それよりもそのシルエットから発せられる鬼気迫るものに圧倒されてしまった。
今、突きつけられている剣のように鋭く、一部の隙もない、氷のような冷たい気配に飲み込まれそうになる。
(……下手には動けない)
ゆっくりと、視線だけを動かして相手が何者なのかを探る。
珍しい片刃の剣には、装飾の少ないつばがつく。それを支える腕はたくましい筋肉がついていた。しかし、あまりごつごつとした印象はない。
広い肩……そして……
「お前がマリスの副船長か」
声は低く、堂々としていた。
雨脚が弱まり、シルエットだけだった相手の姿を蘭の視線が捉える。燃えるような鮮やかな赤い髪と、同色の鋭い眼光。蘭とは違うたくましい体躯と、堂々とした風貌。
「わかっているな。剣を捨てろ」
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