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首元に当てられている剣に力がこもるのを感じた。相手は本気だ。抵抗すればこの場で斬り捨てる気なのだろう。
この期に及んで抵抗する気など、もう蘭にはなかった。
空を仰いでふっとひとつ息を吐く。なぜだか、心の奥がすうっと軽くなった。もう覚悟は決まっていた。
震えるほどきつく握りしめていた血まみれの剣を迷いなく甲板に投げ捨てる。カランと高い音が響いた。
蘭は、瞳をゆっくりと閉じ、両手を肩の辺りまであげた。
ここで抵抗しても、得られるものは何もない。むしろ、より多くの仲間を失い、大切な船長の身を危険にさらすことになる。
それは蘭が、もっとも見たくない終焉だ。
それならば、そんな危険を皆にさせるぐらいならば。
「みんな! 剣を下ろせ! マリスは……、降伏する!」
男としては少し高い、蘭の凛とした声が船上に響き渡る。
彼の声に、船上のすべての者が動きを止めた。一斉にその視線が蘭に注がれる。
状況を理解するのに、これ以上言葉は必要なかった。
剣を喉元に突き付けられた蘭のその姿に、味方は驚愕し、敵は歓喜した。
しかし、今の蘭には周囲など一切見えてはいなかった。
次の瞬間にすっと開いた瞳は、覚悟の色をのせ、赤髪の男を見据えていた。張り詰めた雰囲気の中、先に口を開いたのは、剣を突きつけている赤髪の男だった。
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