925人が本棚に入れています
本棚に追加
#1 嵐の船上
船上は、激しい喧騒と殺気に包まれていた。
薄暗い中に、交わる剣先が鋭い火花を散らし、そこに響き渡る怒声と悲鳴は、甲板に響く靴音にかき消されていた。剣を握る海の男たちはどこから襲ってくるかわからない相手に神経をささくれ立て、次から次へと自分に向けられる敵意と対峙していた。
人間、知らないことを体験するのは誰だって恐ろしいもので、鋭い切っ先を向けられる度、そこに死を連想してしまう。
やらねばやられるこの状況下で、多くの者は怯まずに剣を取り戦っていたが、中には死への恐怖のあまり何もできずに座り込んでしまったり、混乱の中、精神に恐慌をきたし、どうしていいかわからずに、自ら海へ投身する者もいた。
海の潮の香りとは違う、澄んだ水の匂いが辺りに漂い、風の音が耳をかすめた。嵐になる前触れだ。
最初のコメントを投稿しよう!