917人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
#4 男娼の烙印
コンコン…………
覚醒には程遠い、意識の奥深くで、何かを叩く音がする。
その音は誰かを呼んでいるように聞こえた。
――なんだろう?
音に反応し、蘭は身体がもぞりと動く。
コンコンコン…………
「ん……っ」
再び聞こえた音は、今度こそはっきりと蘭の耳に届いた。
誰かが部屋の扉を叩いている。蘭は重い瞼を持ち上げた。
朝から、副船長の部屋の扉を叩くとは、よほどの事があったのか?
蘭はそう思いながら、顔を軽く上げた。なぜだか腰のあたりがひどく重い。
温かいものが、自分の腰を抱えていた。枕もいつものより肌触りが気持ちいいし、何より身体が包まれているようで、とても心地良い。
それは人肌のぬくもりに近い気がした。
そこまで考えて、蘭は大きく瞳を開く。焦点の合わない目に飛び込んできたものは、昨夜自分を苛んだ男の、印象的な赤い髪。
「ひっ!」
微かな悲鳴をあげて身体を引いたのは、心に刻まれた昨夜のショックのせいだ。
とにかくこの男から少しでも離れなくては。何せこの男は、男の身体で欲情する危険人物だ。蘭はあわてて飛び起きた。
「ぐっ! あっ、あぁっ!」
最初のコメントを投稿しよう!