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りりりりり。りりりり。 肌寒くなってきた秋の初め。 僕は自宅のアパートの窓際で冷たいカフェオレを飲みながら、コオロギと思しき虫の声を聴いていた。 昔から、スズメなどの小鳥の鳴き声と虫たちの歌声を共に聴く、所謂『自然の合唱』が好きだった。 心が豊かになると言えば聞こえは良いが、実際はただの一目惚れみたいなものだ。『あ、好き』と思ったものを生涯好きで居続けるなんて、僕一人特別に与えられた感性なんかじゃあないだろう。 「寒くないの?」 奥のキッチンから二人分のお茶を持って僕の隣に座ったのは、一年前からこのアパートで同棲している、僕の彼女だ。 華奢、色白、肩までの柔らかい黒髪、そして整った幼い顔立ち。 正直僕にはもったいないくらい美人なのだが、こんな冴えない僕を好きだと言った愛しい彼女を、僕はもう手放すことはできないだろう。 「ああ。温かいお茶を持ってきてくれたから、寒くない」 「……もう、調子いいんだから」 くすくすと可愛らしく笑う声に、僕の頬も弛んでいく。 ズズ、とまだ熱いお茶を啜り、息をついた。 「もうすぐあの山も色付くんだって。下のおばあさんが教えてくれたの」     
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