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細い指で差した、目の前の青々しい山。 名も知らぬ杉の山は、僕達が同棲し始めてからずっと眺め続けてきた山だった。 「杉って、寒くなると紅葉と同じ様に赤く染まるらしいよ」 「そうなの?なーんだ、知ってたんだ」 むくれた様に言う彼女に、僕は続けて口を開く。 「君に言われてから思い出したから、少し前の僕は知らなかったも同然だよ」 「知識として残ってたんだから、ずっと知っていたのよ」 「……じゃあ、思い出させてくれてありがとう」 「ふふっ、あなたのそういう所、私は好き」 笑った彼女の後ろから、優しい風が吹いた。 草と、木と、野花と、それから彼女のシャンプーの香り。その全部が僕にぶつかって、僕は思わず息を飲んだ。 「…………なあ」 コト、と湯呑みを冷たいカフェオレの隣に置く。 「なに?」 ──まだ、早いだろうか。僕はまだ未熟で、仕事だって満足な役職についていない、だだの平社員だ。 お金だって沢山の貯金がある訳でもない。彼女のためなら回らない寿司屋にでも夜景が綺麗なレストランにでも連れていくけど、正直ブランド品のバッグとかは一つか二つが限界だ。     
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