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「もう時間がない。金陽、教えたことを守りなさい。そうすればずっと心安らかに生きていけるから。いいね。恨むでないぞ」
「恨む……」
遠い記憶の中でその言葉を幼い時に聞いたことを思い出す。と、同時に天様の姿がうすぼんやりと霞んできてしまった。
「天様! お姿が! ああ!」
「よい。私の天寿である。お前と過ごせて、しあ……」
ふわりと全ての姿が消えた。私は唖然としてぼんやり立っていたが、天様が死んだ私の母の亡骸を地面に埋め、山と一体化したことを思い出し、急いで私もそうしようと天様を探す。
土をせっせと掘り、天様を姿をきょろきょろ探し、また土を掘るが彼の髪の毛一筋も残っていなかった。そのうち人間の男たちのざらついた不愉快な笑い声が聞こえ始め、土を掘る私の足元にひゅっと一本の矢が飛んで地面に刺さった。
「うあああっ!」
母狐の命を奪ったのは一本の矢だ。私は初めて怖いという感情が芽生え、濃い霧の中に身を投じ息が切れるまで走りぬいた。
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