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「故郷へ戻してやろうか」
「へえ? 本当ですか? ああ、嬉しいなあ。故郷を離れたせいで力が半減してしまっていて」
やせ細った彼を背負い運ぶのは造作もない事だった。遠くぼんやりと霞む陸地を鼻づらで指し、ふんふんと匂いを嗅ぎながら「あそこです」と言うので、私はふうっと大きく息を吸い込み、高く舞い上がり、一番近い陸地に降り立つ。
「うわあー、さすが金陽様だ。なんて高く飛ぶのだろう」
何度か繰り返し、その土地に足を踏み入れると、背負っていた彼の毛並みに艶が戻り始めていた。
「ああ、この匂い。もう少しで故郷だ……」
今までの土地と違い湿度が高く、霧に煙っている。険しい岩肌だらけの高い山を登り頂上に立つと何やら大きな影が現れた。
「ああ……。長老だ」
「……」
静かに立ち止まり様子をうかがっていると、全身、真っ白な雪のような毛並みの大きな犬が現れる。背負っている犬の二倍、つまり私の三倍はあるであろう大型な犬である。
「ようこそ。金陽様。我らの一族のものをお連れくださいましてありがとうございます」
「いや……」
「わしは一族の長でございます」
長老は恭しく頭を垂れる。
「長老……」
私の背から、ずるりと滑り降りやせ細った犬が甘えたように鼻を鳴らす。
「やれやれ。わかったであろう。霊力をまず高めてから出て行かないと。これだから今どきの若者は身の程知らずで困る」
「すみません……」
しょんぼりと身体を低くするが、土地の霊気を吸っているであろう、その犬は命の輝きを取り戻し始めている。
「どうぞ。金陽様。ご馳走させてくだされ」
「いや、私は別に……」
「そう言わずに、金陽様! どうぞ!」
いつの間にか、すっかり元に戻ったような若い犬に苦笑しながら私は犬神の村へと入っていった。
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