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「あ、あの、不束者ですがよろしくお願いいたします」
「ん?」
娘は痩せた身体を起こし、正座をして頭を下げる。
「精一杯お仕えいたします」
何を言っているのかしばらく分からなかったが、どうやら娘は私の元に輿入れしたつもりであるようだ。
「うーむ。お前と番うことになるのか」
「え? 違うのですか?」
「ふふっ。まあよいか」
お前を食らうつもりであったとは告げず、甘露によって回復した娘と、とりあえずまた交わることにした。
娘は毎朝、私の毛並み整えた後、洞窟の中を掃き清める。山に入り木の実や果実をとって食し、枯れ草をひいた柔らかい寝床で交じり合う。
不思議なものでこのように娘と過ごしているうちに、毛並みが以前のような輝きを取り戻してきた。
「なんと、お美しい。金のお日様のようです」
「ああ、名乗っていなかったな。私は『金陽』という」
「金陽さま……」
「お前は?」
「おらは千代と申します」
千代は子供の頃に両親を亡くして村の中ではあぶれた存在であった。そのため私の生贄に選ばれたのだろう。
「村に帰りたいか?」
「いえ、帰りたいとは思わないのですが、あなた様のそのお姿を見せたく思います」
「私を?」
「へえ。村の中でももう天様とお狐様のことを忘れてしまうものが増えたのです」
「そうか」
天様のことを心の中にでも、とどめておいて欲しいと願う私は娘、千代の言う通りに村人の前に姿を現すことにした。
背中に娘を乗せ、空を飛び、村の上を旋回するとざわめきが聞こえ始めた。
「おい! あれ!」
「お、お狐様じゃ!」
「なんと輝かしい!」
「背中に乗っておるのは千代でねえか」
「ほんに、ほんに!」
村で一番大きな茅葺屋根に立ち、私は村人に告げる。
「社を建て、天様を祀れ! さすれば村は永遠に守られるであろう!」
私の言葉に村人たちはひれ伏し、すぐさま社を建て始めた。これで天様が忘れ去られることはないだろうと満足してまた山の中に帰った。
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