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どんなきっかけでもいい。
直が、生きることに執着してくれるなら。
直と並んで座り、借りてきた映画を流す。隣をちらりと見ると、その顔は、真っ直ぐ前を見ている。
彼はあの日以降、沙羅には触れてこない。
でも
沙羅が背中を向けた時、頭の先から下まで、物欲しそうな視線がくすぐる。沙羅の身体は、その度にきゅんと疼いた。振り向くと目を逸らすから、困ってしまう。
そっとその身体にもたれ掛かると、直がぴくりと反応してぎゅっと拳を握るのが見えた。見上げると、戸惑ったようにこちらを見る目の奥には、ゆらゆら揺れる熱い光。
今なら。
直の心が揺れている今なら…
「そんなに、したい…?」
沙羅が言ったその言葉に、直は目を見開いて、それから顔を赤く染めた。
「なに、が…」
どもりながらそう言う直に、沙羅は微笑んだ。
その笑顔を見て、直の顔が切なそうに歪む。
「そんなに、顔に、出てるか…?」
直の目を見ながら、こくりと頷いた。
「…情けない…」
はぁ、と息を吐いて顔を覆ってしまう。
「何回でも、しよ?」
「忘れられないくらい」
そう囁くと、直は首を左右に振る。
「お前はまた、そういうことを…」
呆れたような声が聞こえて、沙羅は直の両手をそっと外した。何かに迷うような揺れる瞳が覗く。
「忘れない」
「私が、ちゃんと、覚えてる。」
ちゅ、と頬に口づけると、直がはぁ、とまた悩ましく息を吐いた。待てをする犬のようにぎゅっと身体を固くしていた直は、恐る恐る沙羅に近付き、ゆっくりその唇に触れた。
**************
「沙羅、…好きなんだ… 」
「愛してる…」
唇に、耳に。
熱に浮かされたような声で、自分を抑えるように丁寧にキスする直の頭を優しく撫でる。
「また会えて、お前が笑ってるだけで、幸せなんだ」
うん、とまた沙羅は頷く。首を甘噛みされて、ぴくん、と身体が反応した。
「ぅ、…」
直がぶるりと震える。力を抑えて、貪り付きたいのを必死で我慢している直が愛しくて堪らない。
「直」
怯えた子どものような目が見上げる。
「怖がらないで」
優しく頬を撫でる手に、直が目を閉じて擦り寄った。
「直が忘れても、」
「あなたの前世ごと、私が覚えてる。」
直の目が潤んで、それを隠すように沙羅を抱き締める。
「忘れないでくれ…」
くぐもった声が聞こえる。
初めて聞く直のその言葉に、沙羅は目を潤ませて微笑んだ。
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