同じ月を見ていた

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「おじいさまっ」  見つめあう二人に突如、怒りに満ちた声が割って入ってくる。  車に待たせていた孫の清が痺れを切らせたようだった。  柔らかい髪の毛を乱しながら少年との間にぬっと入って、そのままかばうように青山を背後へ隠してしまう。  背の低い青山は完全に清に隠れてしまい、視界から少年が見えなくなってしまった。 「遅いと思ったら、貴様、祖父になにをした?」  普段は温厚な清だが、完全に敵意をむき出しにした鋭い声音に、青山は少年の誤解を解こうと「やめなさい、清」といさめた。 「…え……?」  少年が疑問の声を上げた。 「いま、なん」  たしなめてくる青山にぐっと喉に詰まらせた清は「行きましょう、おじい様」と足の悪い青山を抱えるように足早に車へ急ぐ。  完全に置いてけぼりにされた少年は戸惑いながら青山の背中を目で追う。
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