同じ月を見ていた

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 彼とは十六歳の頃、青年学校で出会った。  当時、日本は第二次世界大戦末期で、食うにも困るような有様だった。  僕は大きな商家の一人息子で、大事な後取りである僕が招集されないために親は色々苦心したようだ。幸いにもと言うべきか、大きな商家であったため、商いをするために父は兵隊にはならずに済んだが、年頃である僕を危惧した父が青年学校へ進ませた。  青年学校では十六歳以上の男子に対して四年間の軍事教育を施すのだが、教育という名の下に軍事にも携わるので、現地へ派遣される兵隊になる可能性が低いだろうと見越してのことだった。  父は「四年間、我慢してくれ」と僕の肩を叩いた。  僕は生まれてこの方、とんと運動音痴で本の虫だったので、体力には自信はなかったものの、父の期待や苦心に報いろうと慣れない力仕事にも精を出した。  ただ空いた時間は自宅から持ち込んだ本を読みふけっていた。  身体は連日の物資調達や奉仕活動で疲れ果てていたが本を読む時間だけは、現実の疲れを忘れられた。貴重になってしまった本を買うために支給されていた握り飯を換金してまで本を買おうとする僕に辛く当たる同期もいたが。 「また本ばかり読んでるのか、青山」  宿舎で息をひそめるように本を開いていると同室の奴らがからかいに来る。
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