赤い流れ星

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 ふうっ、と亮輔は傍の木にもたれ掛かった。ふと空を見上げると、木々の間から見えた景色は地上とはまるで正反対に、美しい満天の星空であった。  目だけを動かし、流れ星を探した。小さな無数の光達は、そんな彼を急かす様に、ちらちらちらちらと瞬き続けた。  あの弾は、決して自分やバーナードに向けられた物ではなかった筈だ。つまり、あの時亮輔の身体を撃ち抜いたのは、流れ弾だったという訳だ。  こんな状況なのに、思わず笑みが零れた。こんなのを啓が見たら、また言うだろうか。鈍臭いなあ、と。  亮輔は、握り締めていた物を見た。野球ボールは、もうすっかり泥と自分の血で汚れて無残な姿である。  バーナードはこれを探しに戻ったのだという。どうして、と問いただすと、だって、だって、としゃくり上げながら、彼はこう言ったのだ。 「友達から貰った、大切な物なんでしょ?」  キャッチできなかった自分の責任なんだと、彼はまた泣いた。  その事を思い出して、亮輔は、子供のくせに、と呟いた。子供のくせに、そんな事気にするなよ。そんな事された所為で、こんな時までアイツの顔を思い出す事になったじゃないか。  夜空の星は無数にあるのに、流れ星はちっとも見つからない。亮輔はとうとうその場に寝転がった。  なあ啓、今君と同じ空の下で、僕は死にかけてるよ。君は何をしてる?こんな夜空を眺めて、一服でもしてるんだろうか。もう死のうが生き残ろうが、どっちだって良い。ただ――ただ、もうあの輝く笑顔に会えない事だけが心残りだ。  途端に涙が溢れ出した。泣けば傷口が悲鳴を上げる。いや、それより……泣いていては、流れ星を探せないじゃないか。  亮輔は、たった一つ願いたかった。その為に、往生際悪く星空を見つめ続けた。  しかしその甲斐空しく、彼の意識は遠のいていく。その時、顔に刺さる草達が、あの時と同じ匂いを放った。そして遂に、彼の目に、夜空を裂く金の糸が映った。あっ、といつかの声が聞こえた気がした。  たった一つ――あの時言えなかった「ありがとう」を、僕を天体観測に誘ってくれて「ありがとう」と、アイツに届けてくれないか。  彼の視界は、いつの間にか幾何学(きかがく)模様に輝いていた。その逆光の中、誰かさんの白い歯だけが浮びあがって見えた。初めて出会ったあの日と同じ様に――。
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