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ふうっ、と亮輔は傍の木にもたれ掛かった。ふと空を見上げると、木々の間から見えた景色は地上とはまるで正反対に、美しい満天の星空であった。
目だけを動かし、流れ星を探した。小さな無数の光達は、そんな彼を急かす様に、ちらちらちらちらと瞬き続けた。
「あっ」
隣で啓が叫んだ。
「どうしたの?」
「ほら、流れ星。赤い流れ星が流れてるぜ」
「えっ?」
啓の指差す方を、亮輔は覗いた。
「……何だ、あれは飛行機だろ?」
満天の星空の中を、一機の飛行機が、赤いライトを点滅させて泳いでいた。
何だあ、と啓は残念そうに笑った。
「世紀の大発見だと思ったのに」
それを聞いて、亮輔はくすっと笑った。何だよ、と言った啓も一緒に笑い出す。
肌寒い風吹く、秋の夜長の事であった。
亮輔が啓に、一緒に天体観測に行こうと誘われたのは、あまりに突然の事であった。
「……何で、僕と?」
亮輔は先ず、そう聞いてしまった。すると啓は不思議そうな顔をした。
「嫌か?」
「え……嫌とかじゃなくて。僕等、喋った事あったっけ?」
図書室の中は、2人以外誰もいなかった。司書の先生もカウンターにはいない。
「あっただろ。ほら、こないだ消しごむ拾ってやったじゃんか」
「そういう事じゃなくて……」
啓は、4年1組の中心的存在である。元気ハツラツで、昼休みも放課後もグラウンドで友人と走り回る、そんな典型的な小学生の一人であった。一方の亮輔は、クラスにこれといって仲の良い友人はおらず、かといって苛められているわけでもないのだが、いつも一人で本を読んでいる大人しい人物。一人くらいそういった奴がいる方が、何となくクラスの均衡も保たれるというものだ。
そんな訳で、2人は全くと言って良い程、関わりが無かった。強いて言うなら、亮輔が消しゴムを落とした時に啓がそれを拾い、「はい」「ありがとう」の二言を交わした程度だ。
しかし、啓にも亮輔を誘う理由があった。
「ほら、理科の宿題。星の観察しなきゃいけないだろ?俺、あんなの見たってどれが何の星かなんて分かんねーんだもん」
「早見表、貰ったじゃないか」
「どうやって見るんだよ、あれ?」
要するに、啓は亮輔を頼っていた。しかし、初めて話した人にいきなり頼られても、亮輔としてはただただ困惑するばかりである。
「あの……岩沢君とか新島君とかは?」
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