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「ほれっ」
啓の打ったボールが、亮輔の元に降って来る。ところがボールは、構えたグローブを無視して彼の頭を直撃した。
「いった!」
頭を押さえる滑稽な姿に、啓は向こうで笑っていた。
「ちょっとは手加減しろって」
「してらあ。リョウが運動しなさ過ぎなんだろ。どーせ、学校じゃ勉強ばっかしてんじゃねーのか?」
亮輔はボールを拾って、啓を見据えた。それを見た啓はにっと笑って、バットを構える。
「当たり前だろ。それが学生の……意義だっ」
亮輔は思いっ切りボールを投げた。ところがそのボールは、ふわりと浮いて啓の元へ向かう。啓は、あぶねっ、と腕を縮めてバットを振った。打たれたボールもまたゆったりと放物線を描く。
亮輔は上を見上げたが、既にボールは自分のすぐ近くに迫っていた。その後起こる事は、最早想像出来るだろう。
また向こうで、笑い声が聞こえた。
「まあったく、鈍臭えなあ」
太陽はもう高い所まで来て、気温が上がって、次第に親子や子供達が増えてきた。2人は少し高い丘に座って、その様子を眺めていた。
どうだ、学校は?と、啓が言った。
小学校を卒業した亮輔は中学受験に合格し、啓とは別の学校に通っていた。啓とは久しく会っていなかったのだ。
「うん……まあ、ぼちぼち」
「何だよそれ?」
「啓こそ、どうなんだよ?」
「俺?はは、見て分かんねーか?」
啓はバットを小さく振って見せた。彼は野球部に入ったそうだ。
「打てるのか?」
「うんにゃ」
「え?」
今度はボールをひらひらと振って見せた。どうやらピッチャーらしい。
人にやらせておいて……。しかし、亮輔の顔からはつい笑みが零れた。それにつられて、啓は大袈裟に笑う。
いつの間にか、話は勉強の話になっていた。
「なあ、今度俺にも教えてくれよ」
「何が出来ないの?」
「全部」
「啓……」
にひっと、啓はまた屈託の無い笑みを見せた。
「もうすぐ高校受験だろ」
「……うん、まあな」
いつの間にか時間はあっという間に過ぎていて、気付けば中学3年生だった。時の速さに焦りと寂しさを感じる。
「医者になるんだよな、リョウは」
啓と仲が良くなるにつれ、亮輔は色んな事を啓に話していた。自分の夢や希望や、啓はいつでも、いいなそれ!と笑顔で聞いてくれるのだった。
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