赤い流れ星

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 外は雨が降っていた。  周りのざわめきは止む事を知らない。子供が駄々をこねる声や誰かを探す声、荷物を引きずる音がひっきりなしに亮輔の耳をつんざく。  出発まで、あと3時間程ある。朝食もさっき済ませてしまったので、ただぼうっと、外に停まる大きな白い鉄の塊を眺める位しかやる事がなかった。こんなもんが、本当に人間を乗せて大空を舞うのかと思うと、少しぞっとした。  その時突然、ポケットの中のスマートフォンが震え、亮輔は慌てて取り出そうとした。その所為で、思わず傍にあったスーツケースを蹴飛ばしてしまう。 「あっ……」  スーツケースは横に流れ、隣に座っていた人の傍に寄って行った。 「す、すいません」  隣に座っていた人は、すっとスーツケースを左手で止め、右手に持ったスマートフォンをひらひらと振って見せた。その癖に、はっとして顔を上げる。 「よっ」  にかっと笑うその顔は、幼い頃からちっとも変わっていない。 「何だ、ちっと老けたんじゃねーか?」  そう言う彼も、すっかり日焼けして、貫禄のある顔立ちになっていた。 「……本当に来るなんて」 「嫌だったか?」  少しの間の後、亮輔は微笑んで、そんな訳無いだろと言った。2人で眺める飛行機は、さっきとは違って見えた。 「やっぱ忙しいのか?医者ってのは」  うん、という返事に、啓は、同窓会くらい顔出せばいいのに、と呟いた。  忙しいのを言い訳にするのは良くない事だと分かってはいても、やはり避けられずに言ってしまった。慌てて、啓だって忙しいだろう、と取り繕う。 「まーな。そのくせ、儲かんねえ仕事だぜ」 「どうせ、給料日に浮かれて使っちゃうんだろ」 「ご名答」  こうしてちゃんと話すのは、何年振りだろうか。連絡先を交換していても、メールなど交わしたのは卒業して何週間か程度である。  いつ出発なんだ?聞かれたのは、ほんの3日前だった。タイミングが良いのか、察しが良いのか、本当に彼は侮れない。  漸く面と向かって話せるのに、お互い話す事は何て他愛もない事なのだろう。しかし気付けば、出発時間の1時間前になっていた。  亮輔は発展途上国の医療発展に尽くす為、遠い国に飛び立つのだった。それは、これからの長い間、故郷を離れる事を意味していた。
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