赤い流れ星

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 知らない国での医療は、亮輔にとって想像を絶する苦難の連続であった。医療機器は乏しく、薬も十分に備蓄されてない。何より、衛生的な水が口に出来ない事や十分な食料が得られないのはどうしようもなかった。その原因は分かっている。此処は、紛争の戦線であるからだ。  亮輔は難病の子供が集まる小さな病院に配属された。これまで何人もの小さな命が失われていくのを目の当たりにした。その度に、自分の拙い医療を嘆いた。  その日も、彼は誰もいないベッドの傍で立ち尽くしていた。 「先生」  後ろから声を掛けられ、亮輔は振り返る。そこには、唯一の看護婦であるサラがいた。 「……そんなに気を落とされないで下さい」  亮輔は黙ったまま、小さく頷いた。そしてまた、ベッドに目をやる。  さっきまでそこには、小さな男の子がいた。震える声で僕に言った。先生、絶対手術、成功させてね。僕は微笑んで、ああ、と言った。あの子は、ずっと信じていた筈だ。それなのに……。  設備の不足は、言い訳にしかならない。逃げるのは簡単だ。しかし、一つの命が、助けられるかもしれなかった命が、目の前でなくなっていった事は事実。亮輔は拳を握り締めた。 「先生……」  するとそこへ、場にそぐわない明るい声が飛び込んで来た。 「ねえねえ、サラお姉ちゃん」  サラの服を引いているのは、患者の一人、バーナードだった。サラがトーンを上げて、どうしたの?と屈んで聞く。 「あんねえ、俺、お外で遊びたいの」 「あら……でも、今日は具合大丈夫かしら」 「僕が診てあげるよ」  亮輔が振り返って言った。心配そうなサラに気付かないふりをして、バーナードに微笑む。 「僕が遊んであげよう、良いかい?」  バーナードは嬉しそうに目を輝かせて、わあい!と両手を挙げた。 「但し、具合悪いのを我慢しちゃ駄目だよ。先生に嘘つくのも絶対駄目。約束だよ」 「はーい!じゃあせんせえ、キャッチボールね!」  そう言うとバーナードは、庭へ駆けて行く。サラが慌てて、走っちゃ駄目よ!と叫んだ。 「……じゃあ、行って来るよ」  サラは心配そうな顔を見せる。 「先生……大丈夫ですか?」  亮輔は、微笑んでサラを振り返った。 「……ああ。いつまでも落ち込んでる様じゃあ、あの子に悪いしね」  そして彼は、ゆっくりバーナードの後を追い、庭へ出た。
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