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校庭ではしゃぎ回っている生徒達の声が聞こえる。高鬼やかくれんぼ、竹馬や一輪車に乗って、楽しそうに遊んでいるようだ。私は一回伸びをした。学級通信の仕上げが、あと少しだけ残っている。
「園田先生、ボタンが一つ外れてますよ。教師たるもの、身だしなみには十分気を使ってくださいね」
目聡いでこりんが、私の袖口のボタンが外れているのを指して言った。すみません、と深々頭を下げる。
でこりん、でこるん、でこりーな。
唱えてから、立ち上がる。いつもと違う私の行動に、でこりんは少し驚いたようだ。
「お茶、入れ直しましょうか?」
でこりんが飲んでいたお茶が残り少なくなっていた。自分のも入れるついでにと、でこりんの湯のみを手に取る。どうも、とでこりんは小さい声で呟いた。
驚きながら、私が何を企んでいるのかと疑っている様子が手に取るようにわかって、妙におかしかった。ちゃんと湯のみをお湯で温めてからお茶を入れた。その方がお茶がおいしくなる。おいしい方が、幸せになれる。
お茶を渡す時、どうもと、今度はさっきよりしっかりした声ででこりんは言った。私は微笑み、自分の分に息を吹きかけて冷ましてから飲んだ。
でこりん、でこるん、でこりーな。
三人で行った天体観測を思い浮かべる。直ちゃんと細道くんが早くくっつけばいいのに。あれだけ仲良しの二人が、どうして友達のままなのだろう。
そう考えていたら、うふふと思わず笑みが零れた。突然笑い出した私を見てでこりんがびくっと怯えている。
今晩、尾崎さんに電話をしてみよう。迷惑がられたら、その時この想いを諦めればいい。
だけどきっと、一度や二度では、諦めない。
尾崎さんが、好き。
私はお茶を飲み干し、学級通信の仕上げに取りかかった。
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