3.プリオシン海岸

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「何それ、告白のつもり?」 「つもり、じゃなくて、そうだよ」 「大体さ、文脈が合ってないよ。じゃあさ、のじゃあの意味がわからないもん」 「おい、こんな時まで国語の話かよ」 「当たり前じゃん。私、国語の先生になるんだから。先生になって、みんなに文学の良さを伝えるの。文学はいいよ。人生が膨らむよ」 「勝手にしろよ。だけど、今はどうでもいいだろ」 「良くないよ。私、芥川龍之介みたいなラブレターを書いて告白してほしいのに。じゃあって何。じゃあって」 「うるっさいなぁ。お前も山脈が合ってねえんだよ。あくた龍之介は知らねえけど、今どきラブレター何か出す奴いねぇよ」 「だからいいんじゃん。あと山脈じゃなくて、文脈。あくたじゃなくて芥川だから」 「うるっせえなぁ。ラブレターなんて、書いたことねえよ。どんなラブレターだよ。教えろ」 「だめ。答えなんて、ありません。自分で探してください」 「俺の言葉パクったな。一文字百円だぞ」 「お、それが彼女に対する態度ですか?」 「え、彼女ですか?」 「さあ、わかりません」  笑い声が響く。金魚座が、笑ったように揺れていた。いつの間にか俺達は手を繋いでいた。冷え切った手。でも、あったかい。  でもさぁ。あいつが上を見ながら言う。その横顔は、きれいだ。 「答えがないなんて、数学もなかなか、面白いね」  やっと気づいたか。俺は言う。  あいつは笑った。  金魚が泳ぐ川の上の星屑の線路に、銀河鉄道が、汽笛を鳴らして、走っていた。
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