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「何それ、告白のつもり?」
「つもり、じゃなくて、そうだよ」
「大体さ、文脈が合ってないよ。じゃあさ、のじゃあの意味がわからないもん」
「おい、こんな時まで国語の話かよ」
「当たり前じゃん。私、国語の先生になるんだから。先生になって、みんなに文学の良さを伝えるの。文学はいいよ。人生が膨らむよ」
「勝手にしろよ。だけど、今はどうでもいいだろ」
「良くないよ。私、芥川龍之介みたいなラブレターを書いて告白してほしいのに。じゃあって何。じゃあって」
「うるっさいなぁ。お前も山脈が合ってねえんだよ。あくた龍之介は知らねえけど、今どきラブレター何か出す奴いねぇよ」
「だからいいんじゃん。あと山脈じゃなくて、文脈。あくたじゃなくて芥川だから」
「うるっせえなぁ。ラブレターなんて、書いたことねえよ。どんなラブレターだよ。教えろ」
「だめ。答えなんて、ありません。自分で探してください」
「俺の言葉パクったな。一文字百円だぞ」
「お、それが彼女に対する態度ですか?」
「え、彼女ですか?」
「さあ、わかりません」
笑い声が響く。金魚座が、笑ったように揺れていた。いつの間にか俺達は手を繋いでいた。冷え切った手。でも、あったかい。
でもさぁ。あいつが上を見ながら言う。その横顔は、きれいだ。
「答えがないなんて、数学もなかなか、面白いね」
やっと気づいたか。俺は言う。
あいつは笑った。
金魚が泳ぐ川の上の星屑の線路に、銀河鉄道が、汽笛を鳴らして、走っていた。
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