4.蠍の火

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 怒り狂う両親の顔を思い浮かべながら、私はそう答えていた。  両親とはいつだってご飯に行ける。だけど宗一くんと会うチャンスは、今回が最後かもしれない。そのチャンスを逃してはいけないと思った。  彼の瞳に映るものは何かを知りたい。  私が映ることはあるのかを、試したい。  数学者が銀河を解き明かしたいと思う気持ちと同じだ。 「じゃあ、夜七時に、奥野山の麓のバス停で待ち合わせしよう」  了解。私の声は喜びと喜びで膨れ上がってしまったようだ。 「声、大きいね」と宗一くんにやんわり指摘された。君の小さく聞こえる低い声よりましだ。  それは言わなかった。会ってから言ってやろう。  彼に、会えるのだから。
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