4.蠍の火

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 私の問いに、宗一くんは首を傾げて考え出した。  沈黙が流れ、私のトレッキングシューズが土を掘るざくざくとした音や、遠くで聞こえる川のせせらぎ、風の走る音、鳥の鳴く声が、私達の周りを通り過ぎる。  心地良い、心と体を包む音達。 「光っているからかな、生物は光に引き寄せられるようにできているから。蛾みたいに」  蛾みたいに。  私はここで蛾を引き合いに出す宗一くんの神経にとても魅かれた。軽い男ならきっともっと巧いことを言うだろう。「君みたいに光っている」とか鳥肌の立つような表現をする。  それをしない、ただ単純に質問を真剣に考え、自分の知識を総動員して背伸びすることなくそれを使う宗一くんに、とても好感を持った。 「確かに、理系的に考えると、宗一くんが言う通りなのかも。でも私みたいな文系的な考えをする人間はね、例えばこう考える。 人間の中には、いくつもの星が輝いているの。大きさや数はそれぞれ違うけど、必ず、人は自分の中に星を持ってる。その星は溶けて、私達の一部になっていて、普段その存在を意識することはないんだけど、空に輝く星を見ると、身体に溶けている星が懐かしがるの。 私達の故郷は、空なんだって。 いつか、空に還るんだって」 「いつか、空に、還る」  私の言ったことを、宗一くんはゆっくりと復唱した。  還るんだよ、宗一くん。寂しがることはないんだよ。星は空に還って、いつだって私達を見守っているんだから。  私の想いは、伝わっただろうか。  宗一くんは、少しの間黙り込んで、地面を見つめながら歩いていた。
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