4.蠍の火

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「着いた。宗一くん、頂上に着いたよ」  頂上には二組ほどのカップルがいた。車が二台停めてある。夜に歩いて登山するような物好きは私達だけらしい。  空を見上げる。  濃紺に染まった広大な空に、輝く星が無数に散りばめられている。一際強く光る星や、白や銀に輝く星。  ひっくり返りそうになるぐらい背中を反らせて、宗一くんは星を見つめていた。 「この間、父親が死んだんだ」  流れ星がすっと消えていくように、宗一くんは小さく呟いた。だけど隣に立っていた私には、十分過ぎるほど声は届いた。  知ってるよ。言いそうになって、抑える。私が知っていることを、彼は知らない。 「この空のどこかに、親父はいるのかな」宗一くんはまた、流れ星のように呟く。 「いるよ。ずっと、宗一くんのことを見守ってくれてるよ」  そうか。  星を眺めたまま呟く彼の瞳から、一粒の光が、尾を曳いて流れた。
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