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お母さんは、彼が中学生の時に交通事故で亡くなったらしかった。料理とアイロン掛けの得意なお母さんで、いつも笑顔を絶やさない、優しい人だった。
宗一くんはそう言って星を見つめる。星を見上げる時、彼はいつも、少し寂しそうだ。
「賭けをしよう、宗一くん」
寂しそうな宗一くんの顔を見る度、賭けを持ちかけるのが私の癖になった。
賭けはいい。
何かを賭けて、その勝敗を見届けるまでの間、その勝負に夢中になれる。
彼の寂しさが少しでも紛れればいい。そう願いながら。
賭けといっても、お金はかけない。せいぜいモノだ。その時によってアイスを賭けたり、ジュースを賭けたり、洗濯物を干す役目を賭けたりする。
賭けの内容も様々だ。テレビ中継の野球でどちらのチームが勝つか、ドラマの結末は何か、明日の天気は何か、そんなものだ。
ちなみに私は一度も負けたことがない。私が強いというより、宗一くんが弱すぎる。野球のルールもよくわかっていなかったし、ドラマを見るのは初めてだし、天気を見極めるための雲の厚さとか湿り気などの情報に鈍感だし、こっそり携帯で調べるなんていう反則を思い浮かべもしない。
真面目くんを相手に勝つことなんて楽勝だった。
そうやって一緒の時間を過ごすことが増えてはいっても、私と彼は付き合っているのかいないのか、よく解らない状態だった。
宗一くんは言葉で気持ちを表そうとしない。聞いても答えない。私の質問に数学の話で返してきたりする。だけどその問題の解答が返答に繋がっていたりするから油断ならない。
つまりこちらが大半を察するしかないのだ。彼の気持ちを察するのは骨が折れる。
だけどこの半年、彼と一番長い間傍にいたと自負する私が推察し続けた結果、彼は、常に孤独を抱えているようだった。
二人で楽しくテレビを見ていても、例えばドラマで人が死ぬシーンに反応してお父さんのことを思い出したり、おいしいご飯を食べているとお母さんを思い出したり、私と話していると、いつか私がどこかへ行ってしまうんではないかと不安になったりするらしかった。
彼の表情や態度や数学の問題を半年かけて解いて、私はようやくそれだけのことを発見したのだ。大変な労力だった。
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